村上龍『半島を出よ』年表
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新設 2006(平成18)年12月27日
(この間省略)
更新 2010(平成22)年1月4日
最新更新 2010(平成22)年3月27日
■村上龍『半島を出よ 上・下』(幻冬舎,2005。ハードカバー版)(幻冬舎文庫版,2007)
本作品のあらすじは、ウィキペディアの『半島を出よ』にも詳細に紹介されているので、そちらにお任せしよう。
日本が経済的に破綻した結果、アメリカから見捨てられ、既存の政党組織は離合集散四分五裂、ホームレスと意味不明の犯罪がともに激増・・・という作品内の前提条件は、村上氏の既存の作品である『愛と幻想のファシズム』『希望の国のエクソダス』と同じ系統、同じグループだといえる。
3作品の共通点を述べてみると、『半島を出よ』におけるイシハラグループの立ち位置は、『愛と幻想のファシズム』における狩猟社、『希望の国のエクソダス』におけるASUNAROのそれと同じだといえる。
イシハラグループも、狩猟社も、ASUNAROも、別に日本人のためなどではなく、自分達の本能の赴くままに立ち振る舞う“ストレンジャー”(『愛と幻想のファシズム 上』講談社文庫、1990、477頁)である。
彼らストレンジャーは、彼ら以外の一般的な日本人を、奴隷だと見下している。平たく言えば、選民意識とでも呼べるか。
彼らストレンジャーの戦う主敵は、『愛と幻想のファシズム』では巨大国際金融資本集団‘ザ・セブン’の指導者ジェローム・ウイッツ、『希望の国のエクソダス』では投機筋のアタック(ASUNAROと投機筋は実はグルだったのではないかと作品内で示唆されてはいるが)、『半島を出よ』では‘高麗遠征軍’と名乗る北朝鮮軍特殊部隊というふうに、いずれも外国である。奴隷でしかない同じ日本人がラスボスだと読者は醒めてしまうだろうから、村上龍としては自然な設定なのだろう(「少年ジャンプ」のような、敵の力のインフレーション化にはまっている恐れもあるが)。
彼らストレンジャーの活躍によって、それぞれの物語のラストでは、結果的に日本の状況は好転してしまっているが、それは彼らの本意ではない。
そして、さらに興味深いことに、『愛と幻想のファシズム』における狩猟社、『希望の国のエクソダス』におけるASUNARO、『半島を出よ』におけるイシハラグループは、いずれも自分達の有力な武器としてコンピューターをフルに活用しているのである。コンピューターは、小さな組織がテロを起こし、権力に反抗するのには絶好の武器なのだと、村上龍が認識しているためなのだろうか。
表にすると、以下の通りとなろう。
『愛と幻想のファシズム』
(1987年)『希望の国のエクソダス』
(2000年)『半島を出よ』
(2005年)作品内の前提条件 ・日本が経済的に破綻
・その結果アメリカから見捨てられる
・既存の政党は離合集散四分五裂
・ホームレスと猟奇犯罪が激増左に同じ 左に同じ ストレンジャーな
主人公達の集団狩猟社・・・
世界を狩猟社会に回帰させようとするASUNARO・・・
登校拒否した男子中学生たちイシハラグループ 主人公達の武器 ・テロ(山岸らが主導)
・コンピューター(飛駒らが主導)・コンピューター(NHKへのハッキング) ・テロ
(タケイが武器を調達、カネシロらが主導)主人公達の敵 巨大国際金融資本集団‘ザ・セブン’とその指導者ジェローム・ウイッツ 投機筋のアタック コリョ
北朝鮮の遠征軍
・・・さて、インターネット上には、『半島を出よ』の書評が多数上梓されているようである。しかし、年表が掲載されているホームページは見当たらないようなので、わたくしが作成・公開することとした。
『半島を出よ』作品内年表
()内は2005年発行の原著ハードカバー版の出典頁、≪≫内は2007年発行の文庫版の出典頁を示す。
※印は史実に起きた出来事を示す。2005年 3月25日 ※『半島を出よ』上下巻発売 秋 EU主導によるパレスチナ和平が進展。和平プロセスの監視委員会に加わっていたNGOリーダーの木戸昌明、ノーベル平和賞の候補に挙げられる(上巻270頁)≪上巻320頁≫ 2006年 不明 アメリカ大統領、アフガニスタン・イラク・イラン・シリアの民主化に失敗したと認める(上巻19頁)≪上巻27頁≫ 年末 ドル急落、続いて円も急落(上巻280頁)≪上巻332頁≫
日本の株価暴落、銀行の破産が起こる(上巻19頁)≪上巻27頁≫2007年
春 預金封鎖。円と外貨の引き換えが制限される。消費税が引き上げられ、最終的には17.5パーセントに(上巻20頁)≪上巻28頁≫
預金封鎖とインフレの責任問題により自民党が分裂。自民党の若手改革派が民主党の主流派と合流、「日本緑の党」を結成(上巻184頁)≪上巻217-218頁≫8月10日 ※文庫版上下巻発売 不明 北朝鮮、核査察を全面的に受け入れ、自ら核兵器を廃棄。アメリカはジュネーブでの米朝不可侵条約の予備交渉開始に同意(上巻280頁)≪上巻332頁≫ 2008年 不明 税制改正により、住民票コードの納税者番号への転用が可能になる(上巻302頁)≪上巻358頁≫ 8月 国会前自爆テロ事件が起こる(上巻62・358頁)≪上巻74・424頁≫ 11月 アメリカ大統領選挙。民主党の候補が勝利(上巻63頁)≪上巻75頁≫ 2009年 不明 アメリカ民主党政権、アメリカには世界の警察官を維持する国力がないと判断。欧州、中国、ロシアと協調し集団安保体制への移行を目指す。そのため日米共同のミサイル防衛構想は破棄、日米安保の解消が匂わされる。日本に飼料用穀物の値上げを通告(上巻63頁)≪上巻75頁≫ 不明 SFX映画「トーマス」、日本より先に中国で封切られる(上巻180頁)≪上巻213頁≫ 年月日不明 衆議院総選挙。木戸昌明、重光卓に口説かれ、日本緑の党の首相候補となる。日本緑の党は僅差で自民・公明連合に勝利し、政権を獲得(上巻184頁)≪上巻217-218頁≫ 2010年 3月21日 北朝鮮・平壌にて、“半島を出よ”作戦の概要が、実行する特殊部隊に伝えられる(上巻「prologue 2」) 12月14日 川崎の緑地公園でノブエ、タテノと出会う。ノブエ、タテノを福岡のイシハラの元へ送ることにする(上巻「prologue 1」) 2011年 3月3日 “半島を出よ”作戦の兆候・・・北朝鮮の偽装工作船が集中して出港しているという情報・報道(上巻「introduction 1」) 3月19日 イシハラグループの少年達の日々。タテノが合流して3ケ月(上巻「introduction 2」) 4月1日 “半島を出よ”作戦を実行する北朝鮮軍のうち特殊部隊先遣隊のコマンド9人、北朝鮮を出発(上巻「phase one 1」) 4月2日 北朝鮮特殊部隊先遣隊9人、志賀島を経由して福岡に上陸、福岡ドームを占拠。北朝鮮からの反乱部隊として、日本政府に対し要求を出す。続いて特殊部隊4個中隊が輸送機に分乗して福岡に到着(上巻「phase one 2〜5」) 4月3日 日本政府、福岡の封鎖を決定(上巻「phase two 2」) 4月5日 大阪府警のSAT(特殊部隊)、福岡・大濠公園で北朝鮮軍を襲撃、戦闘に(上巻「phase two 4」)SATのうち24人死亡、12人負傷、4人が投降・捕虜に(下巻106〜108頁)≪下巻127〜129頁≫ 4月9日 イシハラグループの少年達、シーホークホテルに潜入し、ハエを放出(下巻「phase two 9」)。反乱部隊の本隊12万人、北朝鮮を出発(下巻「phase two 8」) 4月10日 少年達、終日爆薬設置作業(下巻「phase two 10〜11」) 4月11日 少年達、北朝鮮特殊部隊兵士と銃撃戦。ホテルから脱出。ホテル倒壊(下巻「phase two 11〜12」)。これを受けて反乱部隊の本隊、日本の領海から引き返す(下巻「epilogue 1」) 2014年 5月5日 世良木容子、長崎県崎戸島へ(下巻「epilogue 2」) 6月1日 イワガキ、イシハラグループの生き残りの少年達に興味を持つ(下巻「epilogue 3」)
『半島を出よ 上』
()内は原著ハードカバー版の出典頁、≪≫内は文庫版の出典頁、※以下の記述は管理人のコメントを示す。
「登場人物 上巻」
※木戸昌明首相、重光卓外相、梅津経済産業大臣らが登場するが、ひょっとして彼らの名前は、第2次世界大戦前後の日本の重要人物、すなわち木戸幸一(1940〜1945年の内大臣、昭和天皇の側近)、重光葵(東条・小磯・東久邇宮・鳩山内閣の外務大臣)、梅津美治郎(陸軍人、終戦時の陸軍参謀総長)から命名されたのだろうか?
他にも「登場人物 上巻」を眺めていると、松岡楠子情報通信大臣は松岡洋右(第2次近衛内閣の外務大臣)から、板垣内閣危機管理監は板垣征四郎(陸軍人、石原莞爾と共に満州事変を主導、東京裁判でA級戦犯となり絞首刑)から、荒木幸恵総務大臣は荒木貞夫(陸軍人、皇道派のボス、東京裁判でA級戦犯となり終身禁錮)から、土肥原国土交通大臣は土肥原賢二(陸軍人、東京裁判でA級戦犯となり絞首刑)から、来栖国家公安委員長は来栖三郎(日米開戦前の駐米特命全権大使)から命名されたのだろうか?などと想像してしまうのだが、さすがにそこまでゆくと牽強付会が過ぎるか。
『この緑地公園にノブエが住むようになって一年半が経つ。全国でも有数のホームレス居住区となったこの広大な場所は、緑地公園を略して「リョッコウ」と呼ばれている。リョッコウは東名高速の川崎インターから府中方面に数キロのところにあり、横浜市と川崎市にまたがっている。西側のフェンスは約三キロ続き、その内側に遊歩道とサイクリングコースのある草地がある。サッカーグラウンドが優に三面取れるほどの広さの草地だ。草地の南北の両端には雑木林があり、その向こう側は住宅地だ』(16頁)≪23頁≫
※リョッコウのモデルは、位置関係からして、どうやら生田緑地のようだ。生田緑地も東名川崎インターチェンジの北西にあり、横浜市と川崎市にまたがっている。
「十六棟の倉庫を区切るように交差して四方へ延びている道路は、北に向かえば博多湾に突き当たり、南に行けば福岡の中心部へとつながる大きな道路に、東に行けばシノハラが昆虫を採取している森の神社に、西へ行けばほとんどゴーストタウンと化した建て売り住宅街に突き当たる。(中略)
ここから海までは二キロほどだ。埋め立て地の突端には女子校があったが、周囲の治安が悪くなったために三年前に他の場所に新校舎が建てられた。(中略)女子校のすぐ隣は砂浜で、そこに細長い小さな公園があった。(中略)すぐ目の前に島があり、その島へ向かうフェリーは今でも営業を続けていた。(中略)フェリーは能古島という島まで行く。待合所には能古島を紹介するパンフレットやポスターがあり、タテノはそれを暗記するくらい何度も読んだ。能古島には全国的に有名な釣りや海水浴のスポットがあった。パンフレットに載っているビーチは白い砂がどこまでも続いていた。能古島は果物も豊富だった。種のないパパイヤもあるとパンフレットにはあった」(96‐97頁)≪114-115頁≫
※この記述に当てはまる場所を地図で探すと、福岡市西区姪の浜(めいのはま)付近のようだ。グーグルマップではこのあたり、ヤフーマップではこのあたり、マピオンではこのあたりになろうか。
しかしホームページ『備忘録 「半島を出よ」の地図』の「福岡市街」には、“イシハラ軍団の拠点は多分西端の豊浜”としか書かれていない。
“シノハラが昆虫を採取している森の神社”とは、姪の浜2丁目にある恵比寿神社のことだろうか。はたまた愛宕2丁目にある愛宕神社か鐘道神社のことだろうか。
“埋め立て地の突端には女子校”とは、愛宕浜2丁目にある福岡女子高校のことだろう。
福岡女子高の博多湾側にある海浜公園が“細長い小さな公園”だろうか。
福岡女子高の西側、名柄川の河口に当たる姪浜港にはフェリー発着場があり、福岡市営の能古航路が能古島まで通っている。
「日本は本土を侵略されたことがないので国家的危機というものがわからない。我々がミサイルを撃つとか、どこかに上陸するとか、原発を狙ってテロを行うとか、日本の政府も報道機関も想定しているのはそんなことばかりだ。当然のことだが、我々はそんな危険度の高いことはしない。我々が本当にテロをやるなら、それは必然的に防衛的なものになり、日本近海に無数にある小さな島を占領すれば、それで済む。島の巡査を殺し、島民を人質に取るだけで、日本政府は赤子同然になる。その作戦は一個中隊もあれば充分で、日本は、島民もろとも島を殲滅するという、国家なら当然採るべき毅然とした解決策を決して実行できない」(123頁)≪146頁≫
「防衛庁(※管理人註、防衛庁は2007年1月に防衛省に昇格)の情報本部の中には若くて優秀な人材がいて、二年ほど前に、北朝鮮がテロで狙うとしたら離島だというレポートを出したが、政府は事実上それを無視した。日本周辺には七千近い離島があり、その中の四百二十三の島に人が住んでいる。有人の離島を北朝鮮の特殊部隊が占拠したら、対抗手段はなかった。警察官を殺し、住民を人質にして、マスメディアに連絡して、日本政府に要求を突きつける。大規模な装備や人員は不要だ。小隊規模で、自動小銃と手榴弾があればそれで充分だろう。まさに悪夢のような事態だが、四百を越える有人島をそれなりに訓練された兵士たちで警備するのは徴兵制が復活しない限り不可能なので、政府はそういうことは起こり得ないと判断して、レポートを無視したのだった」(182‐183頁)≪215-216頁≫
※双方の描写は、「防衛庁も北朝鮮側も、優秀な人物なら、標的にするなら日本の離島だと考えているのは同じなのだ」として、同時に日本政府の無能さを強調するものなのだろう。
しかし、2002年3月に(ハードカバー版刊行の3年も前の話である!)陸上自衛隊に西部方面普通科連隊が新編されたのは、まさに外国軍が離島を占拠するというような事態を想定したためではないのか。ここでも村上氏は、日本政府の無能さ加減と北朝鮮軍の精強さを誇張するために、故意に現実を無視もしくは捨象しているのだろう。
また、徴兵制を復活させて、七千近い離島の全てに守備隊を置く必要など無論ない。いざ鎌倉となったら、離島へは日本本土からヘリコプターだの船舶だので兵士を輸送すればいいだけの話で、西部方面普通科連隊もそういったコンセプトで編成されているはずだが、ここでも村上氏は(ry。
「共和国では、人民軍も他の労働組織も下着は共用で個人のものはない。多少サイズが違うだけで全部同じ製品だし、まとめて洗濯したあと更衣所に山のように積んであって、その中のどれを身につけてもかまわない」(137頁)≪162頁≫
「人民軍では下士官以下に個人用の下着はない。風呂場の脇に積み上げられた洗濯済みの下着を、上のほうからめいめい勝手に取って身につけるだけだ。だから兵士たちに個人用の下着という概念はない」(404頁)≪479頁≫
※『5分後の世界』には、兵士にとって下着の清潔さが需要だという記述があったな。
「内閣危機管理センターは内閣府内にあり、二年前に地下二階に移った。爆弾テロがあっても崩れない構造になっているそうだ。今どき内閣府を狙うテロリストなどいないと河合は苦笑した。皇居とか官邸とか内閣府とか、あるいは原子力発電所とか新幹線とか東京湾とか、北朝鮮のゲリラが狙うのはそういった場所だという常識がずっと政府やメディアにある。それはかつての国家間の総力戦の刷り込みがまだ残っているからだ。より被害の大きなところが狙われるはずだという発想だ」(182頁)≪215頁≫
※2001年の米同時多発テロでは、アメリカ国防総省・ペンタゴンも突入目標にされた。またペンシルベニア州に墜落したハイジャック機はホワイトハウスを標的にしていた可能性があったという現実を、村上氏も、もしくは村上氏への情報提供者も、日本政府の無能さ加減を誇張させるために、故意に無視し、捨象出来るのだとでも思っているらしい。
もっとも村上氏が、「世界最大最強のアメリカ合衆国のペンタゴンはまだしも、無力な日本国の首相官邸なんぞテロの標的になんかなるわけない、pgr」と考えているのなら話は別だ。
タケイのセリフ「うん、そうね、だいたいね」(222頁)≪264頁≫
※サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」の歌詞「今何時?そうね、だいたいね」かよ!
「歴史上何十回と侵攻されてきた国だったら、状況によって攻撃するか降伏するか瞬時に判断するのではないだろうか。経験がないためにどうすればいいのかわからなかった、それが案外真実ではないのか」(341頁)≪404頁≫
※この記述は、反乱部隊を名乗る北朝鮮軍の福岡占拠に日本政府が抵抗・攻撃しなかったのは何故かをいぶかしがる新聞記者・横川のものだが、果たして『状況によって攻撃するか降伏するか瞬時に判断する』という国家があるのだろうか?
少なくとも、近代の歴史においてはないらしい。
別宮暖郎『軍事のイロハ』(並木書房、2004)のパート1、ナンバー8の項目の題は「先制攻撃され、しかも戦わずに屈服した国はありますか?」という問いであり、「いいえ。先制攻撃を受けた国は普通、徹底抗戦します」という答えが示されている。同じ項目にはこういう記述がある。
「二〇世紀に入り、侵略を受け戦わず屈服した国は、第一次大戦のルクセンブルク、第二次大戦のデンマークがあげられます。両方のケースとも、ドイツに侵略されたのですが、国力格差は圧倒的でした。(中略)
これと対照的なのは、第一次大戦のベルギーで、ドイツにフランスへの無害通行を要求されたのですが、一顧だにせず、はねつけました。(中略)
無害通行とは、緩衝国家が外国軍隊の通過を許し、戦場へアクセスできるようにすることです。一般にこの行為は戦場となった国家に対する侵略とみなされ、即時反撃を誘発します。
フランスからみれば、もしベルギーが無害通行を許したとすれば、ドイツの側に立ち参戦し、自国と戦争状態に入ることと同一です」(42‐43頁)
では、『半島を出よ』作中における、反乱部隊を名乗る北朝鮮軍は、侵略行為を行ったのだろうか?
関連する記述ならある。上巻には、
『朝鮮民主主義人民共和国で反乱を起こし福岡に逃げてきたのだったら、ただちに武装を解いて亡命を申し出るべきではありませんか。(中略)
わたしたちは亡命者ではないし、侵略者でもなく、ただ祖国を捨てて真の正義を実現しに来たのです、ハン・スンジン司令官は穏やかにそう言って、リ・ヒチョル副司令を見た。(中略)
ある国の反乱軍が武装したまま外国と共存し、ともに民衆と正義のために戦った例は歴史上多くあります。(中略)高麗遠征軍は福岡および民主的な日本人民を支援するために上陸した援軍だという理解をお願いしたいのです。
「あなたが挙げた例は、みな戦争中のことではないですか。福岡は戦争状態ではないし、あなた方との共存など望んではいませんよ」』(257‐258頁)≪305-306頁≫
とある。
「侵略された時,最初は徹底抗戦するが、その後やむを得ない状況になったので降伏する」
という国家ならたくさんあるが、
「侵略された時、状況によって攻撃するか降伏するか瞬時に判断する」
という国家などは存在しないのである。いや、過去には存在したことがあるのかもしれないが、そんな国は既に地図から抹殺されているので、現時点において地球上には存在できていないのである。
『半島を出よ 下』
「アナウンサーはそこでいったん話を止め、それでは朝鮮半島情勢に詳しい専門家の意見を聞いてみることにしましょうと言って、ジオラマの立体地図の端に立っていた解説者を呼んだ。薄い髪を頭に撫でつけた解説者は、指示棒で立体地図の朝鮮半島の東側の港を指しながら話し始めた」(54頁)≪65〜66頁≫
※この解説者とは、江畑謙介氏のことだろうか?江畑氏は軍事評論家であって朝鮮半島の専門家ではないが、「薄い髪を頭に撫でつけた」とは、匿名掲示板2ちゃんねるでは
「┏━━
(´・ω・`) 」
とまで表記される、江畑氏の特徴的な髪形を描写しているとしか思われないのだが・・・(江畑氏は2009年10月12日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます)。
尾上知加子は、福岡市役所に勤務する公務員である。夫とは2年前に離婚した。幼稚園の息子・健太と、小学校2年生の娘・里子と3人で暮らしている。福岡市長に直接依頼されて、コリョ遠征軍に出向させられる。
尾上知加子は、暴走族グループがシーホークホテルに怪しい集団を運び入れたらしいとコリョに密告する(357頁)≪418〜419頁≫。
※このあたりのくだりを読んでいて、わたくしは、ガンダムファンなら御馴染みの名だろう、ミハル・ラトキエを想い出した。ミハルも弟2人の親代わりとなって、地球連邦軍のスパイ活動をしていた。
「もし自分が犠牲になったら、里子と健太は孤児同然で生きていくことになる」(358頁)≪420頁≫
という記述があるが、
「出向していた福岡市役所職員も、全員ホテルの下敷きになって死んだ」(477頁)≪559〜560頁≫
とあるから、恐らく尾上知加子も死んだのだろう。
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